あと5センチで落ちる恋
「ぶっちゃけて言うと俺、総務に配属になってわりとすぐから、中野さんのこと気になってたんです。…というか、正直好きになりかけて…いや、なってました」
「…え、うそ」
全然気付かなかった。
いつどのタイミングで、一体どこが良かったのだろうか。
それに、爽やかに穏やかにサラッとそんなことを言われては、逆にどう反応したらいいのかわからない。
「一緒に仕事する機会も多くて嬉しかった。だからこそ、早く一人前になって頼もしいところ見せたくて。好きだから認められたいなって感じで、ただ中野さんの背中を追いかけてたんです」
市原くんのそんな言葉を聞きながら、気が付く。自分もどこか似たようなことを思ったことがある。
「だけど…中野さんが見ていたのは、いつだって水瀬課長の背中でした。中野さんは、前を行く課長のことをひたすら追いかけて、後ろから追いかける俺のことなんて、振り返って見てくれない。そう思いました」
「そ、うかな」
自分はそんな風に見えていたのか。そんなにも、課長を見ていただろうか。
「新人の俺が課長に敵うはずがないことぐらいわかります。でも悔しくて、なんとか俺のほうも見て欲しくて自分なりに頑張ってたつもりだったんですけど…」
市原くんは、そこで自嘲気味にフッと笑った。