あと5センチで落ちる恋


「今回のことでもう、無理だなって…。俺のミスを裏からフォローしてくれて、それを他の社員に、特に中野さんに気付かれないようにするんです。課長が俺を立てるんですよ。もうカッコよすぎて意味わかんないっつーか」


ああ、課長らしいなと思った。
あの人はそういう人だ。私達と同じように努力するし、対等になろうとする。

偉そうな顔も嫌そうな顔もしない。


「そんなの、お似合いすぎるじゃないですか。諦めもつくってもんですよ」

「お似合いってそんな、そういうのじゃ…」

「でもいいんです。いつか絶対、あの課長よりすごい人間になってやるっていう目標が出来ました。だから本当に感謝してるんです、課長にも、もちろん中野さんにも」

「市原くん…」


私がこんな風に言ってもらえるのは、すべて課長のおかげなのだ。私だって市原くんと同じ。あの人への憧れが、いつだって私を突き動かす。


「この場所、中野さんと担当出来て本当によかったです。ありがとうございました」


そう言って最後ににかっと笑った市原くんは、会議室を静かに出て行った。

頼もしい背中だった。
彼は絶対にこの先大きな人間になる、そう感じた。


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