あと5センチで落ちる恋
「あれ、越智だ」
「よ、お疲れー」
ある日、仕事を終えてエレベーターに乗り込むと越智にバッタリ会った。
越智ももう帰るところかと思ったら、荷物の代わりに書類を持っている。
「今日はもう終わり?」
「うん帰るとこ。越智は残業?」
「当たりー」
階数ボタンを見るとどうやら越智も1階に用があるらしい。
越智は良い意味で、ずっと変わらなかった。由紀と付き合うようになっても、今まで通り。
それが越智なりの人との付き合い方で、由紀には由紀の付き合い方があって。
同じ”付き合う”でも、人それぞれなんだなあと感心した。
「由紀とは上手くいってる?」
「ん?あー相変わらず。あいつってちょっと素直じゃないとこあるし、何考えてるかわかんねーこともあるけど」
由紀のツンデレが想像出来て思わず噴き出してしまった。それを話す越智の顔は困ったような、幸せそうなものだ。
「まあでも、素直じゃないのは今に始まったことでもないし」
「そうだね。なんかあったらいつでも相談してよ」
「さんきゅーな」
話している間にエレベーターが1階に着いた。
「じゃあ残業頑張って」
「あ、あのさ」
エントランスへ向かおうとすると、越智に呼び止められた。