あと5センチで落ちる恋
課長が2週間ほど海外に行くことになったのは、9月半ばのことだった。
「中野、俺が抜ける間この会社のデータ管理頼めるか」
「わかりました。あとこっちのデータも振り分けます」
「助かる。それから清水、月曜日の役員会議の接待いけるか」
「まかせてください」
何せ急に決まったらしく、留守を任せられるように課長はあちこちに根回しをしている。私達も出発の1週間前にようやく知らされたので、課長が帰ってくるまではバタバタしそうだ。
アメリカで2週間のスケジュールを組んでのシステム会社向けのセミナーがあるらしい。今までは参加したことが無かったが、今回水瀬課長に是非という上からの声があったらしい。
それだけ期待されていて、うちの会社への影響が大きいということだろう。
2週間の出張を終えた課長が、どれだけの成果を得て帰ってくるのか楽しみだ。けれどそれは、つまり2週間課長と会えないということ。
そのことを寂しく思うのは、課長の仕事を応援出来ていないようで嫌だった。