あと5センチで落ちる恋
夕方、一息つこうと休憩スペースに来ると、自動販売機でコーヒーを買う課長の姿があった。
「大変そうですね」
「中野か。俺よりもまわりが大変だろうな、2週間」
課長に続いて缶コーヒーのボタンを押して、拾い上げた。
「頑張ってくださいね」
「ああ。……もし、俺がいない間になにかあったら…」
手の中の缶に視線を落としながら、課長がポツリと言った。
「困ったことがあったら、一番に俺に報告しろよ」
「え…」
顔を上げた課長は、真っ直ぐな目で私を見つめている。
それはどういう意味かと考え、ああと思い至る。
「大丈夫です、課長がいない間も問題なく留守を守れるようにみんなで協力していきますから。こう見えてみんな、課長にしごかれて逞しくなってますからね!」
安心してもらえるようになるべく明るくそう言うと、逆に困ったような顔をされてしまった。
「あ、いや、そういうことじゃないんだが…」
「あれ?」
意図がわからず首を傾げると、課長がフッと笑った。
「…まあいい。頼もしい部下を持って俺は幸せだな」
そう言ってもらえたことが嬉しくて、任せてくださいともう一度明るく言った。
それから3日後、課長は飛行機でアメリカへと向かった。