あと5センチで落ちる恋
課長が不在の総務課は、それはもう忙しかった。いつもどれだけの仕事をこなしていたのか不思議なくらいだ。
けれどその忙しさに紛れさせることが出来ないほどの感情が、私の中を駆け巡り続けた。
「…ねえ由紀」
「なに」
「2週間ってこんなに長かったかなあ」
それは半分の1週間が過ぎた頃、耐えきれなくなって由紀にこぼしてしまった言葉だった。
「1日が24時間で、それが14日間だから……えっと、336時間?」
「紗羽、あんた」
「長いようであっという間だと思ってたのに逆だね。短いようで長いんだ」
「…寂しいの?」
(寂しい、のかな)
それはあまり認めたくはない感情だった。
なんだか、課長が初めてのことに挑んでいることを喜んでいないようで。
仕事に対して真面目で一生懸命な課長のことを尊敬して、憧れているのに、矛盾している。
「どうしてだろ。まさか追い付けなくなるのが悔しいからこれ以上先に行かないで欲しいとか?…嫌だなあなんか私、自分勝手だ」
そう言ってため息をつく。
すると、横でさらに大きなため息をつかれた。
「…馬鹿じゃないの?」
「え、やっぱり馬鹿?自分勝手過ぎる?」
「はあ〜〜〜!そこまでこじらしてたか!」
「え?なに?そんなに私やばい?」
怒ったというよりは、心底あきれたといった様子の由紀に思いっきり睨まれた。