あと5センチで落ちる恋
さらにその次の日。
「中野さん、これあげます」
市原くんが差し出してきたのは、コンビニで売っているちょっと値段が高めのプリンだった。
「あ、りがとう?でもどうして?」
「それ食べて、元気出してください。そろそろ限界って顔してるから心配で」
唖然とした。
後輩にこんなに心配されるなんて、いったいどんな顔だ。
「気持ちはわかりますけどね。でも俺の前でそれは、ちょっと残酷じゃないですか?」
「ご、ごめんなさい…?」
「あーあ、ほんとにもう、俺の入る余地なんて1ミリもないですよね。嫌というほど思い知らされるというか。だけどそれでますます頑張ろうって思う自分も、どうかしてるというか…」
市原くんは、前より明るくなったような気がする。オドオドした感じが抜けて、頼りになるようになった。
「私、市原くんすごくよくなったと思うなあ。男らしくなったって感じ?総務に来てまだ3ヶ月弱なのに充分すごいよ」
「またそうやって…あなたという人は…。だけど、中野さんにそう言ってもらえるとやっぱり嬉しいです。認めてもらえたみたいで」
照れたように頭をかいて、にこっと笑う市原くん。
彼を見てると少し自分と重なる。頑張りを認めてもらえるのは嬉しい。だけど、誰でもいいわけじゃない。
「それ、大事に味わって食べてくださいね」
市原くんは私の手の中のプリンを指差して、楽しそうに自分のデスクへと戻っていった。