あと5センチで落ちる恋



さらにその次の日。


「中野さん、これあげます」


市原くんが差し出してきたのは、コンビニで売っているちょっと値段が高めのプリンだった。


「あ、りがとう?でもどうして?」

「それ食べて、元気出してください。そろそろ限界って顔してるから心配で」


唖然とした。
後輩にこんなに心配されるなんて、いったいどんな顔だ。


「気持ちはわかりますけどね。でも俺の前でそれは、ちょっと残酷じゃないですか?」

「ご、ごめんなさい…?」

「あーあ、ほんとにもう、俺の入る余地なんて1ミリもないですよね。嫌というほど思い知らされるというか。だけどそれでますます頑張ろうって思う自分も、どうかしてるというか…」


市原くんは、前より明るくなったような気がする。オドオドした感じが抜けて、頼りになるようになった。


「私、市原くんすごくよくなったと思うなあ。男らしくなったって感じ?総務に来てまだ3ヶ月弱なのに充分すごいよ」

「またそうやって…あなたという人は…。だけど、中野さんにそう言ってもらえるとやっぱり嬉しいです。認めてもらえたみたいで」


照れたように頭をかいて、にこっと笑う市原くん。
彼を見てると少し自分と重なる。頑張りを認めてもらえるのは嬉しい。だけど、誰でもいいわけじゃない。


「それ、大事に味わって食べてくださいね」


市原くんは私の手の中のプリンを指差して、楽しそうに自分のデスクへと戻っていった。



< 79 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop