あと5センチで落ちる恋
「俺わりと本気だったんだよ中野さんのこと。総務課に立ち寄るたびに探してたぐらいね」
「影山さんにそう言われてもあまり信用出来ないんですが…」
「あ、ひどいねーそれ」
影山さんはわざとらしく肩をすくめて、白い歯を見せてニカッと笑った。
「でもなあ、あんなシーン見せられたら男としてはショックだったな」
「あんなシーンって…?」
「水瀬課長と!いい雰囲気だったね?」
「!」
さっきとは違い、今度は悪そうな顔で笑われた。このくるくる変わる表情でたくさんの女の子を虜にしてきたんだろうな、と唐突に思った。
「課長もあんな嘘付いてさ。バレバレだったんだけど」
「気付いてたんですか…」
「あの人は俺から見てもいい男だよ。なら仕方ないなって、それで中野さんのこと諦めたんだよ」
そうだったのか。
課長は影山さんに諦めさせるとか、そんなつもりはまったく無かったと思うのに。
「でもいい雰囲気とか、影山さんの思い込みです。実際は全然そんなこと…」
「ここ2週間、中野さんいつもみたいな覇気がなかったね?」
「え…」
今度はニッコリと満面の笑みを浮かべてくる。
「見届けられないのが残念だけど…。せいぜい頑張ってよ。いつまでもウジウジしてたら転勤先から攫いにきちゃうよ?」
そう言って影山さんは、ヒラヒラと手を振って帰っていった。