あと5センチで落ちる恋



しばらくその場から動けなかった。

気持ちの整理をしたかった。
仕事のことは抜きにしたとき、どんな感情が自分の中に残るのか。

たとえば、

出張に私を指名してくれて嬉しかったのも、
その大きな背中に追いついて肩を並べたいと思ったのも、
教育係を任されてその期待に応えようと頑張ったのも、
下の名前で呼ばれてドキドキしたのも、
旧書庫がなくなって残念だったのも、
この2週間で嫌というほど感じた寂しい気持ちも…。


もうどうしても言い訳が出来ないような気がするのだ。


追いつきたいから、認められたいからただひたすら仕事に打ち込んできて、充実感もあったしやりがいもあった。

だけど追いつきたかったのは、認められたかったのは、充実感とかやりがいを感じるためじゃなかった…?


頭がおかしくなりそうだ。
おもむろにカバンをひっつかんで立ち上がった。

課長のデスクをちらっと見る。
明日には、あそこに座る課長がいる。

首をブンブンと左右に振ってから、ようやく部署を後にした。


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