あと5センチで落ちる恋
「いや、違う。違うの。たぶん今紗羽が想像してるより酷いの。深刻なの」
「え?そんなに?」
「付き合った日にね、1回だけキスしたの。手もつないだ。それだけなの」
長い付き合いの友人のこういう話はなんだかリアルだ。下手に聞くとそのシーンを想像してしまうから困る。
「待って。それはさすがに信じられない」
「とにかく徹底して、蒼介が私に触れてこないの。触れてこないってやらしい意味じゃなくてよ?腕に触れたり頭に触れたり、ただの同期だったときはしてたことも、しなくなったの」
これはなんというか…ちょっと異常だ。
ただ恥ずかしがってるだけとは思えないし、第一もうそんなピュアな年頃でもないだろう。
「でもつい最近まで、それこそ喧嘩するまでは順調そうだったじゃない?」
「そりゃ私も、2ヶ月ぐらいまでは不思議に思ってなかったわよ。今までの関係が長かったから、急に恋人らしくなれって言われてもお互い照れくさいし。そんな理由で蒼介も何もしてこないんだろうなって。だけどさ、ここまで来るともう…」
由紀は今にも泣いてしまいそうだった。
付き合う前の片想いのときにも不安そうな顔をしていた。そのときより幸せになれたはずなのに、今のほうが辛そうに見えるのだ。