あと5センチで落ちる恋
越智がゆっくりと、由紀の前まで歩いていく。
由紀は涙を隠すように俯いて、顔を上げられないでいる。
「由紀、今のが俺の正直な気持ち。もうこの際お前が思ってることも全部聞かせてよ」
(あー…なんかつられる。泣きそう)
優しい声で話しかける越智に、由紀の涙はますます溢れてしまう。
そっと手を握られて、意地っ張りの由紀の心が解けていくようだ。
「…私は、」
「うん」
「私ばっかり、好きなんだと思って…。だって蒼介、全然触れてこないし、キスもしてくれないし」
「ちょ、ちょっと待て」
びっくりしたのか恥ずかしいのかで慌てている越智に構うことなく、由紀は続ける。
「わ、私だって、好きなのに。こんなに好きなのに…っ」
由紀は無理矢理涙を拭って、真っ直ぐ越智を見つめた。
「ずっと一緒にいたいなら、そうさせてみせてよ!もう離れられないように、好きにならせてよ!」
「ゆ、き」
そして由紀は、思いっきり越智に抱きついた。
しがみつきながらポロポロ涙を落とす姿は、本当に可愛かった。
これでお互いの誤解も解けただろう。
私の役目はおしまい。
「…なあ由紀」
「…なによ」
「結婚するか」
「!?な、なにいってんの馬鹿!」
このへんでもう恥ずかしくて聞いてられなくなった私は、静かにその場所を後にした。