あと5センチで落ちる恋


それ以来、なんとなく課長を避けるようになってしまった。
理由は自分でよくわかっている。傷付きたくないからだ。

今になって越智の気持ちがよくわかった。怖いのだ。

たまに見せられる課長の優しい目に浮かれていると、その目で拒絶されたときが怖くて怖くてたまらない。


(いつの間に、好きになってたんだろう)

憧れだったはずが、いつの間にか変わっていた。
ずっと課長のことを追いかけてきたから、いつからそれが変わったかなんてわからなかった。

越智と由紀を見てきて、きっとあの2人に私は成長させられた。
私が世話を焼いてたようで、実は逆だったのだろう。


だけど、ふいに思う。

上手くいかないなら、ずっと恋愛なんて出来ないままでいたかった、と。

恋をするから寂しくなるし、辛くなるし、胸が痛くなる。
それなら恋なんてしないほうがずっと楽だし平和だ。
実際、1人でいるほうが好きなことに時間を使えるし、仕事にも打ち込める。
好きなだけ寝られるし、好きなものばっかり食べられるし、休みの日に何をしていようと誰にも何の文句も言われない。
ずっといい。ずっと楽しい。


………そう思っていたはずなのになあ。


< 92 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop