あと5センチで落ちる恋
結果的に、他に誰もいないフロアで2人だけで残業するという、今の私にとって一番気まずい状況が出来上がった。
キーボードを叩く2人分の音が響く。
今までだったら、こんなときでも課長に色々と話しかけることが出来た。
課長がここに来て半年。それだけの関係を、上手く築けていた。
それなのに、今ではもう半年前に逆戻りしてしまった気さえするのだ。
近くにいるのにとても遠い気がして、悲しくなった。
早く終わらせてしまおう。
そう思った私は、タイピングの速度を上げた。
「———課長、終わりました」
やっとそう言えたころには、かなりの時間がたっていた。
「ありがとう、助かった」
「いえ。…もう大丈夫でしたら、私そろそろ…」
「お前最近俺のこと避けてるだろ」
体がぎくっと強張った。
気付かれてたのか。
いきなり核心にせまる質問に、反応が遅れた。
「そ、そんなことは」
「俺になにか問題があるのか?」
「!」
課長がゆっくりと立ち上がった。
ガタッというイスの音に、私の体もビクッと動いた。
「俺は最近ずっと、お前と話がしたかった。だけどお前がそんなんだから、どうしようかと思ってた」
課長が私の目の前に立った。
見上げると、なぜか課長は悲しそうな顔をしていた。