あと5センチで落ちる恋


「か、ちょ…」

「中野。今から俺がする話は、お前にとって迷惑になるかもしれない。そしたら、明日にはもう忘れてもらっていい。避けてくれてもいい」


仕事をしてるときとはあまりにも違う、不安そうな課長に戸惑った。
こんな課長は、見たことがない。


「俺はな、恋愛が出来ない。心底面倒だ」

「……」


何を言われるのかと思えばそんなこと。

とっくに知っている。課長自ら話してくれた。
付き合う別れるやり直す、どれもこれも面倒だと言ったそのときの課長の表情も、しっかり覚えているから。


「だいぶ前に越智に相談されたときも、お前が2人のために何かしたがってたときも、俺は何もしなかった。よくやるなとさえ思ってた」


ぐさぐさと、1つ2つ、突き刺さる言葉。
自分が今上手く表情を作れる自信がなくて、思わず下を見て唇を噛んだ。


「今でも正直、それは変わらない。俺には恋愛は向いてないと思ってる」

「…っ」


おかしい。
最近どうも涙腺が緩んでいる気がする。

こんな、わかりきったことを言われた程度で泣きたくなるなんて、どうかしてる。


「…だけど、恋愛することと、一緒にいたいってのが同じ意味なら、俺は今、その苦手な恋愛をしてることになる…」

「……え?」


< 95 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop