美月~大切なあなたへ~
家に着いた。
声を掛けても誰も居ないのだから、無意味に思えて、ただいまも言わなくなった。
だだっ広い家。
俺1人にはもったいない。
リビングに飾ってある家族写真を手に取った。
もう、5年前の写真だ。
『奈美……瞳……勇翔……。』
愛する家族の名前を口にすると、涙が溢れてきた。
3人が家を出て行ったのは、4年前の冬。
俺が3年生の担任をしていた時だ。
進路指導に忙しくしていたが、幼い子供達とは、休日に遊んでいた。
教師も父親も、しっかりこなしていたつもりだった。
浮気なんてありえないし、俺はモテない。
一途に妻を愛していたし、夜だって寂しくしていなかったつもりだ。
しかし、妻はそれが嫌だったらしい。