美月~大切なあなたへ~
手を離して先に歩きだした先生の隣に、小走りで追い付く。
隣の先生を見上げるのと同時に、先生が話しだした。
「墓参りに行くんだ…アイツの。」
真っ直ぐ前を向いて話す先生の表情は、ちっちゃい私には良く見えなかった。
でも……そんな真剣な声で言われると……。
「そろそろ挨拶しないと、アイツも怒るだろうからなぁ。」
少し明るく言ったけど、空を見上げてるってことは、表情を読まれたくないんだよね?
“アイツ”
先生の亡くなった彼女さん。
はっきり言わなくても通じあってる認識。
そんな関係が、“特別”で嬉しいような……
悲しいような…………
しばらく黙って並んで歩き続けた。
先生と私の間には、蝉の声と、やわらかな夏風が吹き抜けていた。