美月~大切なあなたへ~
「………すみません。」


日明先生は、私達を一瞬見て、頭を下げた。


その目は、“日明先生”じゃなかった。



そのまま、龍心先生には顔も向けず、何も言わず、職員室を出て行ってしまった。



いつもは、声を掛けるか、頭を叩くかしてくれるのに、俯いたまま私達の前を通り過ぎて行った。



頭が真っ白になっていた私も、ようやく頭が働いてきた。




………日明先生?


どうしたの?なんであんな顔してたの…?


泣きそうだったよ……?



「……美緒……ち……」



横から、か細い声が聞こえた。


みっちゃんは、俯いて震えていた。


日明先生が掴み掛かったときから、みっちゃんは、私のジャージの裾を掴んでいたことを思い出した。




「……日高。」


『……沖田先生…?』


「……放課後、俺のとこに来い。
浜田は落着いたらでいい。
六時間目は自習だ。理科だっただろ?
今日はアイツ、もう帰らせる。」


『……分かりました。』


「美緒ちぃ……」


みっちゃんが泣いていた。


恐かったもんね。

いつもの日明先生じゃなかったもんね。


こういうとき、“先生”みたいな人の“人間”を感じたとき、恐くなる。



家族以外の身近な大人は、知っているようで、私達は実は何も知らないんだ。







『……龍心先生?』





龍心先生は何も言わず、掴み掛かられたときと変わらない形で立ち尽くしていた。








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