女神の箱庭
高層ビルに設置された巨大な画面の中でバ-チャルアイドルが無機質な笑顔と歌声を振り撒いているその下を多くの人々が行き交っている。
文明と文化に彩られたこの眠らない金属の街を、管理された鮮やかな青空に映し出された人工太陽が照らしている。


『それにしても大丈夫なんですか?
都市警察が、しかも局長が一個人のボディーガードなんかをやってて』

商店やカフェが建ち並ぶ歩道で、エルリオは少し前を歩くユキカゲへと声をかけた。

『ん-別にええよ。
都市警察いうても少しだけ公権を分けてもろとるだけの民間企業やしな。
それに、エルリオ、アンタはヴィーナスゲ-ジで唯一の軍需企業の社長の弟なんやから、誘拐とかのテロ対象にされかねへんからな』

ユキカゲは縁石の上を歩きながらそう答える。

兵器製造メーカーである¨ウェポリニ-スカンパニ-¨の社長を姉にもつエルリオは、大学の帰りや外出する際は、大概ユキカゲが付き添うことになっていた。

『心配性なんですよ姉さんは。
ボディーガードなら他から雇えば良いのに・・・』

『なんや?ワテ以上のボディーガードがおると思うてんのか?』

ユキカゲは縁石からピョンと跳びはねると、着地と同時にエルリオの前に立ちはだかった。

『ユキカゲが優秀なのは知ってますよ。
でも、それなら最も狙われやすい姉さんを守るべきじゃないんですか。
姉さんも同級生で親友のユキカゲなら、安心できるでしょうし』

『安心できるから、弟の警護を頼んだんや』

ユキカゲはそう言ってエルリオに詰め寄り、グィッと顔を近づけてきた。

『それとも、ワテと一緒におるのは嫌か?』

その瞳は悲しげに潤んでいる。

『そ、そんなわけないじゃないですか!
ユキカゲが傍にいると安心できるのは僕も同じなんですから!!』

思わず声を荒げたエルリオに、ユキカゲはニヤニヤと笑みを浮かべた。

『それは告白と受けとってええか?』

『え?あ・・・いや、今のはボディーガードとして安心できるという意味で・・その・・・あの・・・』


また、からかわれたと気がついたエルリオは顔を赤らめ言葉を詰まらせると、ユキカゲは少しだけ踵を上げて背伸びしながら、エルリオの頭に手を添えた。

『ホンマ、エルリオは可愛いわ-』

『子供扱いしないでください!』

『はあ?さっきまで未成年ガ-とか言うてたのは、どこのどいつかな~?』


避けて通る人の目も気にせずに二人は賑やかにはしゃいだ。






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