ご褒美は唇にちょうだい



局の地下駐車場はだだっ広く、夜間は照明があっても薄暗い。
このフロアに関しては関係者しか入れない。

社用車のクラウンを出入り口の一番近くのスペースに回すと、すぐに彼女が出てきた。

後部座席のドアを開け、小ぶりなボストンが中に放り込まれる軽い衝撃。
次に彼女がしなやかに乗り込んできた。


「操(みさお)さん、足下に」


「わかってる。ありがとう」


彼女はヒールの高いパンプスを脱ぎ、俺の用意しておいた一番楽なサンダルに履き替える。
足がむくみやすいタチなので、楽な替え靴の準備は必須だ。

ふうっと座席に彼女が身体を埋める。


「出しますよ」


俺はエンジンをかけ、車をスタートさせた。


「食事は?」


「夕方、ケータリングのサンドイッチ食べたわ。この時間だから、今日はもうやめとく」


「了解」


彼女は疲れているようなので、俺もこれ以上無駄口は叩かない。ただ、運転に集中する。
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