ご褒美は唇にちょうだい
「ごめんなさい」


車に乗るなり、操の第一声だ。今日は郊外でロケがあり、終日現場にいた操だ。
ちなみに、朝はこの件の対応で、操の送りは他の人間がやった。


「軽率だったと思う」


助手席に沈みこんだ操は素直に謝ってくる。
しかし、どこか不遜だ。こちらに顔も向けず、フロントガラスを見つめている。

『いちいち口出さないでよ』といった、反抗的な空気を感じ取ってしまうのは、俺と操の距離が近すぎるせいだろうか。


「食事だけで、他は何もないから」


「それが事実でも、撮られたという結果は変わりませんよ」


自分でも声に怒りがにじむのがわかる。
冷静に、と思いながらどうしても苛立ちが消せない。


「操さんともあろう人が、あまりに短慮で驚きました」


「……共演者と食事なんて、よくある話じゃない」
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