ご褒美は唇にちょうだい
一瞬言葉が出なかった。

何を言い出したのか、頭が把握できなかった。
情けないもんだ。操に動揺させられた。

すぐにひとつ嘆息をして、いつもの表情になる。
何も映さない、何も感じない無の表情を作る。


「真面目に交際するならいいですよ。操さんも大人ですし。ただ、事務所にはきちんと報告してください」


「……ふうん、わかった」


操は低く呟き、それきり喋らなかった。

車内は険悪な空気というわけではない。もともと、操もこちらも口数が多い方ではない。
しかし、走行音のみの妙な静けさは、俺を思考の海に投げ出すには十分だった。

操は小鍛冶青年に惹かれているのだろうか。

本気で、クランクアップを迎えたら付き合う気だろうか。

実際、小鍛冶の方は操に好意があるように見えた。
憧れというミーハー精神も入っているかもしれないけれど。
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