ご褒美は唇にちょうだい
なんだ。さほど悪いこともなさそうだ。
この撮影期間だけ、若い二人の恋心を抑えてもらって、その後はご自由にという流れでいいんじゃないか?


「久さん」


操が車窓を眺めて口を開く。
顔は見えないけれど、声が不愛想なので、彼女の機嫌はよくわかった。


「明日の送り迎えはいいや」


「いえ、来ますよ」


「ハイヤー回しといて。明日は広告の撮影でしょ。撮影スタジオが実家に近いし顔出してから向かう」


操の意志は固そうだ。こちらもあまり機嫌がいいとは言えない。
これ以上のやりとりを無くすために、俺は応と答えるしかない。


「雑誌は明日発売です。出入りは気を付けてください。富田をサポートで回します」


「よろしく」


操はそれ以上何も言わなかった。




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