ご褒美は唇にちょうだい
操は小鍛冶とのスクープで俺が怒ったことをまだ根に持っている。

いや、ごまかすべきではない。操が根に持っているのは、俺があの晩、操を抱かなかったことだ。

操はずっとそのことを怒っている。
いっそ、失望している。

小鍛冶と食事に行ったのは当てつけだろうか。
いや、それは考え過ぎか。
何にせよ、操を俺に怒りを表明し続けている。

だからといって、俺に何ができる。
操は大事な商品だ。それは五年前から変わっていない。

彼女が望むことは何一つ叶えてやれない。
俺にできることは、彼女の演技の糧になること。彼女の心が平穏なままに職務に向かい合えるよう尽くすこと。

操が俺に望むことは、もっともっと即物的なことだ。
恋人として、触れ合いたい。愛を語り合いたい。

そんな少女の夢を俺は叶えてやれない。

操を女としては見ていない。


「鳥飼さん、入られまーす!」


声にはっと俺は意識を戻す。
スタジオの隅で待機していた俺にも、入りの操の姿が映った。

今日も楽屋に顔を出すことも送り迎えも拒否されている。
そのことの焦燥のような感情を覚えていると、どうして俺が口にできよう。

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