ご褒美は唇にちょうだい
操は相変わらず空気を切るように歩いていく。
衣装は洋装だ。髪は三つ編みにまとめられている。

綺麗だ。

それは偽らざる本心。
操は誰よりも美しい。

容貌よりも、そのスタンスが、情熱が美しい。
その一点のみ、俺は彼女に惹かれている。

すると、操に駆け寄る人影が見えた。
前にもこんなことがあった。
嫌な予感を覚え、壁から背をはがすと足早に操に近づく。

やはり、操に駆け寄ったのはあの時と同じ、小鍛冶奏だ。


「鳥飼さん」


小鍛冶の声が静かとは言えないスタジオ内に響く。
それは、彼が皆に聞かせる目的で発声しているからに他ならない。

一瞬にして、嫌な予感は現実になる。

振り向いた操の手を小鍛冶が両手で握った。


「鳥飼さん、俺と付き合ってください。正式に交際を申し込みます」


スタジオから機材の音以外が消えた。

ここにいる誰もが数日前の操と小鍛冶の記事を知っているだろう。
噂の当人による告白劇に、スタジオは水を打ったように静まり返った。
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