ご褒美は唇にちょうだい
「小鍛冶くん!何をやってるんだ!」


マネージャーはがなり、小鍛冶の肩をつかむ。
小鍛冶は揺らがず、その目はもう操しか見ていない。

俺はその視線からかばうように、操の前に立った。

緊迫した場を壊す凛とした声が、俺の後ろから聞こえた。


「久さん、いいわ。どいて」


操が俺の身体を手で押しのけた。そして、マネージャーに捕まえられている小鍛冶を見つめ返す。


「小鍛冶くん、ごめんなさい。告白はお断りします。いい共演者でいてください」


「俺とは恋愛できそうにないですか?」


小鍛冶はショックを受けた風でもなく、聞き返してくる。
眩しいほどの自信と、輝かしい陽性のオーラ。太陽みたいな青年だ。

操は誠意を示そうとするように、小鍛冶から目をそらさない。


「はい。今は演技が大事なので、恋愛に割く時間はありません」


スタジオ全体に妙な空気が流れた。
何しろ、ランスルー直前の現場で、共演者がヒロインに公開告白をし、振られた格好だ。
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