ご褒美は唇にちょうだい
「もうっ……もういい」


操の急激な変化に、つい言葉が出なくなる。
その肩を抱き寄せようかと反射的に考えてしまった俺は、いい加減、距離感がつかめていない。


「好きな人、見つける……。人並みに恋愛する。……久さんの手はもう借りない」


操は悔しそうに眉を寄せ、しゃくりあげながら言う。


「恋人ができれば、久さんなんかに頼らなくて済む。恋をすれば、もっと演技も上達する」


なるほど、俺は恋人役から解放されるらしい。
操の決意表明に、一瞬消えた苛立ちが前にも増して湧き上がってくるのを覚えた。


「……そうかもしれませんね」


答えた声が自分のものとは思えないほど刺々しかった。
よせばいいのに、追加で言ってしまう。


「仕事後に時間をとらなくていいなら、俺の負担も減るでしょう」


無性に怒りを感じた。
さっきから俺は何を苛立っている?
操が賢明とは言えない状態に陥っていること?
そうだ、物分かりのいい俺の商品が自ら商品価値を落とすようなことをするからだ。

そうだ、それ以外に他意はない。
この怒りは、業務的な支障に対してだ。
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