ご褒美は唇にちょうだい
「負担だと思ってたんだね。それは申し訳なかったわ。もう二度とキスもそれ以上もお願いしない」


操がうつむいて呻いた。
歯を噛みしめるぎりっと言う音が聞こえる。
肩が震えているのは、怒りと悲しみが彼女を満たしているからだ。

それから操は低く言った。


「久さんなんか、大嫌い」


俺を拒絶する初めての言葉だった。
ざくりと心臓に刀を突き立てられたような感覚。


「大っ嫌い。あなたは人の気持ちがわからない。冷徹な機械みたい」


今まで、こんなことはなかった。操が俺を嫌う?
そんなことはありえない。操はいつだって、俺が好きで必死だったはずだ。

この時の俺は、少々理性を失っていた。
それは後からわかることだけれど。

どうして、小娘の戯言ととれなかったのか。
どうして、売り言葉に買言葉の口喧嘩で済ませられなかったのか。
どうして、大人の了見を見せられなかったのか。

次の瞬間、俺は操に大股で歩み寄っていた。

椅子にかけたままの操の顎をとらえ、上向かせると強引に口付けた。
< 128 / 190 >

この作品をシェア

pagetop