ご褒美は唇にちょうだい
操が驚いて身動ぎする。
しかし、それを空いた左手で押し留め、かがみ込んでキスを深くした。


「もう一度言ってみろ」


唇をわずかに離してささやいた。
操はしゃくりあげぐしゃぐしゃの顔で、俺を見つめている。


「どこの誰が俺を嫌いなんだ?言ってみろ」


低く静かに言った声音に、操がびくりと震えた。


「嫌い。……久さんなんか嫌い」


震える声、歪んだ顔。瞳からは涙が溢れ続ける。


「私のことなんか、子どもだって思ってる。適当に転がしてやろうって思ってる。鼻の先にニンジンぶら下げて、ほら走れって言い続けてる。本当に卑怯。本当にずるい」


罵りながら、裏腹に操が腕を伸ばしてきた。
俺の首に巻きつく白くて細い腕。メイクを落としたいつもの素顔が俺の頬に触れた。


「大嫌いだけど、大好きよ。……意地悪なところも、冷たいところも。死ぬほど悔しいけど、私はあなたが好き……」


この瞬間、俺は自分の中にある苛立ちの正体をすべからく理解した。
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