ご褒美は唇にちょうだい
久さんは私の気持ちに答えをくれなかった。
それは絶望すべきことでありながら、どこかでわかりきっていたことだった。

久さんの至上命題は、私が一流の女優になること。
それ以外は寄り道でしかない。

悲しむ必要はない……というより、あの時、私は気づいた。

久さんは私を悪しからず思っている。

表の大義名分とは違う深い部分で、彼は私を女として見てくれている。
ただ、彼の圧倒的な理性がそれを抑え込んでいる。

彼に告白を煽られ、抱きしめられ、私は電撃的にその事実に気づいてしまった。

悲しいほどの虚無感と、無上の喜びを同時に感じた。
私の気持ちに永劫しらんぷりをし続ける真木久臣は、それでも私を深く愛している。

ああ、望んだ関係が見つかった。

叶わないけれど、男女の喜びを感じることはないだろうけれど、私はそれで幸せ。

久さんがそばにいてくれる。
私を守ってくれる。

ある意味で、私の恋は成就したのだ。
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