ご褒美は唇にちょうだい
「はい、できた。もう、何も食べちゃ駄目だよ」


二上さんは綺麗な顔をすっと離す。
この前、メイク後にカップ焼きそばを食べ、口紅を剥げさせ青のりをくっつけてしまったことを言われている。
そうした悪事をちょくちょくやると、この人は知っているのだ。


「食べませんよ」


「今日の撮影終わったらちゃんと食べて。ヒロインの顔色じゃないからね。真木さんにも言っとく」


二上さんは久さんの名前を出してさっさと行ってしまった。
久さんに言うのは勘弁してほしいんだけど、それを伝え損ねてしまった。



「わお、操さん、メイク直した?キッレー」


入れ違いにソファにやってきたのは小鍛冶くんだ。

クランクアップ間近の彼は出会った時より10歳年を取っている設定なので、落ち着いた海老茶のスーツに髪をオールバックにまとめている。
客観的に見て、なかなか格好いい。


「小鍛冶くんもカッコイイですよ」


「あ、知ってます。えへ。でも、操さんに褒められると嬉しいなぁ」


「社交辞令です」


「それなら、もう一声」


「素敵」


「……適当すぎません?」


私の真顔と棒読みに、小鍛冶くんが情けない顔をする。
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