ご褒美は唇にちょうだい
相変わらず遠慮なく隣に座る。
距離をとれなんて、事務所からの指令を彼は守ったことがない。


「操さん、俺もう少しでクランクアップですよ」


「うん、知ってる」


「もうちょっと何かありません?寂しいとか」


小鍛冶くんがすがるような苦笑いを見せる。
私は彼を横目で見て、肩をすくめた。

どうせ、この現場を離れてもどこかで会うだろう。
彼の好意は置いておいて、彼の演技の才能は本物だ。きっとまた仕事をする機会は訪れる。


「あのね、一瞬ガチな話していいですか?」


「どうぞ」


「操さんには好きな人がいますよね」


小鍛冶くんが真面目な声で言った。

私は答えなかった。
小鍛冶くんの言葉が断定的だったから、答える必要はないと思った。


「しかも、昨日今日じゃなくずーっと片思いしてるでしょ。ずるいよなぁ、演技のことしか頭にないって俺を振ったのに」


私は彼を見て少し笑んだ。


「断りの言葉にはちょうどいいでしょう?衆人環視の中で告白された身にもなって」
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