ご褒美は唇にちょうだい
「まあ、確かに」


小鍛冶くんは気を悪くはしていないようだ。
むしろ、私の言外の肯定をきちんと受け止めている。その上で、彼は再びはっきりと言った。


「マネージャーの真木さん」


相手まで気付いていたのか。彼は本当に私をよく見てくれていたんだなぁ。妙に感心してしまう。


「当たりですか?」


「うん、まあ」


焦ってはいなかった。小鍛冶くんに言い当てられてどこかでほっとした。
彼の好意はまだ感じているし、嘘でごまかしたくない気持ちもあった。


「だと思ったぁ。操さんの視線の先には真木さんばっかりでしたもん。一緒にいる時の濃密な空気。あれ、キツイですよ、片思いの身には」


小鍛冶くんはへへと笑う。からかう口調なのは、彼の気遣いかもしれない。


「付き合ってるんですか?」


「ううん、付き合ってない」


「片思い?」


私は曖昧に笑った。片思いと答えるには、少し複雑だ。
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