ご褒美は唇にちょうだい
今日の分の撮りが終わり楽屋に戻ると、すでに時計は22時を回っていた。
疲れを感じた。
身体が重たい。うっすらと頭痛の気配を感じる。


「入りますよ」


遅れて久さんが楽屋に入ってくる。
普段は着替えまで時間をつぶしてくれるんだけど。
どうしたのかと振り向くと、衣装もメイクもそのままの私に、久さんが近づいてくる。頬に触れてきた。


「久さん?」


私も手を伸ばし、背の高い彼の頬に触れる。
以前はできなかったことが自然にできる。
頬の感触も、今の距離感もたまらなく好き。


「小鍛冶くんとは?休憩中何か話していたでしょう」


そのことか。彼の心配に、つい頬が緩む。


「いつも通り告白されただけ。そして断っただけ」


久さんがふっと微笑んだ。


「それは、いつも通りですね。でも、あまり気を許してはいけませんよ」


「はいはい、また記事になっちゃうもんね」
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