ご褒美は唇にちょうだい
「駄目じゃない。主役がこんなところに来ちゃ」


「いえ、どうしてもお礼が言いたくて」


小鍛冶くんはばさっと花束を床に置く。
たぶんわざとだと思うけれど、久さんを押しのけて、私の両手を握った。


「操さんと共演できて、役者として本当に勉強になりました。これからも俺の目標でいてください。頑張って追い付けるようにしますから」


小鍛冶くんの熱心な言葉。その横で渋い顔をしている久さん。
対比がおかしくて、私はつい笑ってしまう。

久さん、そんな顔したら、環にも小鍛冶くんにもバレちゃうよ。


「私も小鍛冶くんと共演できてよかったです。ありがとうございました。お疲れ様でした」


「慰労をかねてデートしてください」


小鍛冶くんの言葉に環の方が盛り上がっている。
口元を抑え、小声で「ちょっとお姉ちゃん!返事!」と急かす。私と小鍛冶くんを見比べながら。忙しいったらない。
環と小鍛冶くんの期待をぶち壊そうと私は答えた。


「デートしませんってば」
「小鍛冶くん、うちの鳥飼にちょっかいださないでください」


私の言葉と久さんの言葉が重なった。
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