ご褒美は唇にちょうだい
小鍛冶くんがぶっと吹き出し、手をぱっと放す。


「もー、操さんも真木さんも、防犯機能高過ぎ。今度は真木さんいないところで誘います」


「それも駄目です」


私じゃなくて、久さんが答え、小鍛冶くんはしぶしぶと花束を拾い上げる。
環がこの一連の流れをクスクス笑っている。


「それじゃ、退散しますよ。失礼しまーす」


私はその背を見送りながら、ふと廊下と小鍛冶くんの背の輪郭がぼやけるのを感じた。

なんだろう、やっぱりくらくらする。
あれ?吐き気もするかもしれない。

困ったな、まだ撮影があるのに。


「操さん?」


久さんの声が遠い。

環が私の腕をつかむ感触も何枚も布を隔てた向こうで起こっているようだ。

小鍛冶くんが振り向くのがわかる。

なんだろう。
ふわふわする。

久さんが私を抱き寄せ、私の意識はそこでぷつりと途切れた。



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