ご褒美は唇にちょうだい
「花粉症の薬だけ、ほしい」


「内藤医院を予約しておきます」


今年9月スタートの朝の連続ドラマのヒロインに内定したのは昨年のことだ。
この大きな仕事は、やはり一般的にも注目が高く、私はオーディションでヒロイン、“美登利”役を射止めた。

子役時代に朝ドラには出演経験はあるけれど、ヒロインの幼少期という短いスパンの出演だった。
それ以来だ。今回は正真正銘の主役。


「操さんの経歴には大きなプラスになりますね」


「わかってるわ。久さん、またちょっと探して欲しい資料があるんだけど」


私はスマホで欲しい書籍のデータを久さんに送る。

今回の朝ドラの舞台は昭和初期。
戦時中から戦後、幾多の困難を越え詩人として生き抜いた女性のストーリーなのだ。
資料になる本はいくら読んでも足りない。


「江戸風俗史ですか。主人公の美登利は花柳界の出ですからね。でも、根を詰めないようにお願いします。疲れ目は頭痛の元ですよ」


あくまで静かに注意される。
確かに私は頭痛持ちだけど、私は生徒でもなければ、もう子どもでもない。
< 15 / 190 >

この作品をシェア

pagetop