ご褒美は唇にちょうだい
「鳥飼さんの腫瘍は確実に良性とは言えません」


40代と思しき医師が真面目な顔で言う。


「急激に症状が出ているということは、進行性の悪性腫瘍の疑いもゼロではありません。画像では腫瘍と脳の境界がはっきりしていますので、一般的な良性腫瘍には見えます。しかし、進行の速さを考えれば、わかりません。早めの摘出を勧めます」


この人は、両親とではなく、私と話をしてくれる気だ。
私は安堵して医師の目を見つめた。


「大事な仕事です。起こっている症状を抑えることができれば、クランクアップまで演じられます。協力してください」


「薬で、頭痛や吐き気は緩和はできると思いますが、完全ではありません。麻痺に関しては、腫瘍を取る以外に対処方はありません」


「それで結構です」


「浸潤性の高い悪性腫瘍、つまりガンだった場合は、1月末まで待って命の保証はできませんよ」


「保証は要りません。協力してくださればいいです」
< 154 / 190 >

この作品をシェア

pagetop