ご褒美は唇にちょうだい
背後でがたんと音がしてわずかに見ると、母が椅子を倒して立ち上がったところだった。


「操!何を言ってるの!!」


「お母さん、落ち着いて」


環が母をなだめるように肩をつかむけれど、母はそれを振り払い、私に向かって怒鳴る。


「命より大切なものなんてないのよ!あなたには大切な仕事かもしれないけれど、ドラマ撮影を続けて命を危険にさらすなんて間違ってるわ!すぐに今のドラマは降板しなさい!」


椅子にかけた父も眉間にしわを寄せ言う。


「操が女優の仕事に真剣なのはわかる。でも、娘の命を失うかもしれないと思う親の身にもなってくれないか?ここで、病気療養に入ることは何ら恥ずべきことではない。操の女優歴に傷はつかないと思うんだ」


自分の身体に異常が起こったと気付いた時から、両親のスタンスはわかっていた。
それは、親であるならば当然の立場。

両親の気持ちは理解できる。娘としてありがたいと思う。
私が同じ立場なら両親と同じ行動をとるかもしれない。

でも、私はもう選んでいる。自分の在り方を。


「ここで仕事を捨て、命の安全を取ったとしても、私は死ぬわ」


私の答えに、両親が黙った。
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