ご褒美は唇にちょうだい
「私は今、ヒエラルキーのトップにいるの。私を中心に話は動き、私を中心に役者もスタッフも動くの。替えは利かない。私は最後までそこにいるのが仕事なのよ」


今、私が降りたらドラマはどうなるか。それは、目覚めてからずっと考えた。
代役を立てれば、いびつでも形にはなるだろう。
しかし、職業人として許せることではない。


「この仕事を投げたら、女優・鳥飼操は死ぬ。女優としての私が死んだら、もう何も残らない」


両親には『若者の戯言』に聞こえるだろう。
でも、私にとってこの情熱こそが命。

久さんが守ってくれ、私がすべてをかける存在が女優・鳥飼操だ。


「クランクアップまで、手術はしないわ」


「操!!」


母が悲鳴をあげた。長女の私が如何に頑固であるか、彼女はよく知っている。それゆえの悲観の声だ。


「考え直しなさい。一時の気持ちで選択すべきことじゃない」


父はまだ諦めず言う。私は首を振った。


「最後まで役を務め上げます」


「それなら、レグルスの三雲社長に頼もう。私から、おまえを降ろすように。聞かなければ、訴えを起こすことだってできるんだぞ」
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