ご褒美は唇にちょうだい
コントロールできない私に苛立って、父が無茶を言い出す。
すると、ずっと黙っていた久さんが口を開いた。


「お父様、お母様、操さんの意志を尊重していただけませんか」


「は?あなたまでそんなことを言うんですか?真木さん」


父がいきり立つ。
父からしたら、信頼していた味方に裏切られたような気持ちだろう。

久さんは平然と言う。


「操さんは人生のすべてをかけて女優業をしています。今の仕事は、彼女にとって大きな飛躍となる仕事なのはおわかりいただけると思います。操さんの情熱は本物です。けして、若さゆえの妄言ではありません。彼女の意志を無視してその命に等しい情熱を奪い去ることができますか?」


「あなたにとっては商品だからでしょう!でも私たちには娘なんですよ!」


父の怒声に、久さんは静かに、でもはっきりと答えた。


「ええ、商品です」


両親が絶句する。
久さんは重ねて強い口調で言った。


「女優・鳥飼操は、私が命をかけて生涯守り抜く大事な商品です。彼女の表現と情熱を邪魔するものは、たとえご両親でも許しません」
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