ご褒美は唇にちょうだい
6.ひとりにはさせない
操の病が告知されてからひと月半が経った。
操は熱心に仕事を続けている。
両親とは断絶状態だが、妹の環さんがちょくちょく顔を出す。心配していることには変わりないようだ。
操の病については、レグルスの三雲社長にも、ドラマの監督にも伝えてある。
その上で、本人の意志を尊重したい気持ちは皆一緒だった。
操は嫌がったけれど、朝ドラのスケジュールは大きく変わった。
操のクランクアップを早める方針をとってくれているのだ。
とはいえ、主役は操なので、限界はある。
全体的に予定が前に詰まってくるため、忙しさも増しただろう。
操本人は、周囲に自分の体調をまったく気取らせない。
頭痛や吐き気は以前よりはっきり症状が現れ、薬が効かないこともあるようだった。
また、利き手の右手指先に軽度の麻痺が出てきた。本人にもはっきりとした自覚がある。
しかし、周囲は誰も知らない。操の精神力には恐ろしいものがある。
俺も同伴で通院し、腫瘍の状態は都度調べている。
大きくなっていることはなかったけれど、一部、脳との境界が曖昧な部分があるらしい。
浸潤性があるといわれる悪性脳腫瘍の場合は、境界がはっきりせず、じわじわと周囲組織に広がっていくのだ。
医師は操に会うたび、手術は早い方がいいと諭した。
もちろん、操が聞くつもりもないのは理解しているようだった。