ご褒美は唇にちょうだい
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その日は夕方からスケジュールが空き、操を通院させ帰宅しても19時という早い時間帯だった。
操はぐったりと疲れていた。
痛みや麻痺に神経を使いながら生活も演技もこなしているので、夜になると消耗は本当に激しかった。
ソファにもたれて座る操に、何か食べさせようとキッチンに入る。
「なんだろ、環からLINE。『ごめんねー』だって」
操がソファで携帯を見ながら言う。
「環さんに何かしましたか?送り間違いとかでは?」
「うーん、ごめんって言われる心当たりがないからなぁ」
すると、インターホンが鳴った。玄関ホールからの呼び出しだ。
宅配などは下で預かってくれるので、呼び出しが鳴るのは珍しい。
操が起き上がろうとするを制してインターホンに出る。
玄関の画像も映り、操が先に驚いた顔をした。
『どーもー!』
インターホン越しに聞こえてきた陽気な声と、カメラに向かって微笑む青年は、小鍛冶奏だ。
「なんですか、小鍛冶くん」
『あ、その声は真木さんですね。環さんからぜーんぶ伺ってます。お邪魔させてくださーい』
全身全霊で追い返したいところだけれど、操が後ろで笑いながら「通してあげて」なんて言うものだから、仕方なしに開錠する。