ご褒美は唇にちょうだい
掃除機でグラスの破片を拾うと、俺は予定通りパスタを作る作業に戻った。

俺が夕食を作る間、操と小鍛冶は楽しそうに喋っていた。
朝ドラの進行のこと、放映の反応のこと、小鍛冶の新しい現場のこと。

姉弟のように話すふたりを見て、以前のような焦燥は浮かばなかった。
むしろ、操の体調と心を軽くしてくれている小鍛冶に感謝すら湧いてくるから不思議だ。

夕食を三人で摂り、操は小鍛冶の持ってきたフルーツゼリーも口にした。
普段よりずっと食べている。
楽しい時間を過ごすと、小鍛冶はまた来る旨を伝え帰って行った。

操はその後調子良さそうにシャワーを浴び、スキンケアをしていたけれど、結局就寝直前にはトイレに駆け込んですべて戻してしまった。

ぐったりとベッドに横たわる操に水を飲ませ、俺は操の頭を撫でる。


「疲れてしまいましたか?」


「ううん、大丈夫。吐いちゃったから、久さんと小鍛冶くんには申し訳ないけど。でも、楽しい夜だったよ」


操は顔色こそ良くないけれど、嬉しそうに笑っていた。
こんな表情は久しぶりで、なんだか切ないような嬉しいような気持ちになる。
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