ご褒美は唇にちょうだい
私には役者の仕事以上に優先すべきことはただのひとつもない。

そして、その一番の理解者は久さんなのだ。
きっと、私が帰らない分、実家にケーキでも届けておくんだろな。


「食べたら、事務所よね」


「ええ。ゆっくり召し上がってください」


久さんがペリエを開けながら答えた。






私の所属するプロダクション・レグルスはあまり大きいとは言えない芸能プロだ。
社長と私の両親が親しくて、幼い頃、習い事代わりにここに所属させられた。

最初は泣いてばかりで、てんで役に立たなかった私も、今ではこのプロダクションの稼ぎ頭。
多少は恩返しできているように思う。


「操ちゃん、お待たせ」


事務所に到着すると三雲社長がデスクからのそのそとやってくる。
社長は60代の男性で、人が良くて、のんきなおじさんだ。
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