ご褒美は唇にちょうだい
最近の操は演技に精一杯だった。
命を燃やすように役になりきり、家に帰ると死んだように眠るか、痛みに苦しんでいる。

もともとストイックな彼女はいまや演じること以外は人としてのすべてを捨てていた。

生への執着が演技だけでは不安だった。
病に負けてしまうのではないか。

世の中は楽しいことに満ちている。
今はクリスマスムードで街は浮かれているし、イルミネーションだって綺麗だ。
俺と並んで、恋人の真似事でもしながら歩いたり、甘いものなんかを食べたりしたら、気分は変わるんじゃなかろうか。

我ながら、短絡な思考だと思う。

それでも、操に生きる幸福を思いださせたかった。
演技への火のような情熱だけではない。優しく愛しい生への感謝を思い出してほしかった。


「小鍛冶くんと環にも声かけちゃう?」


「それも楽しそうですが、有名な役者がふたり一緒に歩いていたら、また記事にされますね。おふたりを誘うのは、事前にどこか場所をとってパーティーという形式でどうでしょう?」
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