ご褒美は唇にちょうだい
「前、久さんに言ったでしょ。抱いてって。……あれ、やめてもらって正解だったなって」


「……なにを……」


操が何を言い出したのかわからなかった。
悲しい予感だけがした。


「久さんの恋人にしてもらってたら、申し訳なかった。病気になっちゃって。治療より、仕事を優先する女だし。……だから、恋人にしてもらわなくてよかったなぁって……思ったんだ」



その言葉は、とてつもなく痛かった。


いっそナイフを突き立てられた方がましだった。

俺は、操をこんなに寂しい場所に追いやっていたのか。

愛を交わせないことを当然と思わせてきたのだ。
それが俺たちの絆であり、永遠なのだと、純粋な情熱を盾に向かい合わなかった結果がこれだ。


操は、俺といながらひとりだったのだ。

頼っているふりをしながら、たったひとりで病と闘っていたのだ。


< 173 / 190 >

この作品をシェア

pagetop