ご褒美は唇にちょうだい
ストレッチャーで運び込まれる私を見守る久さんは、普段は冷静沈着この上ない顔を不安に歪めていた。
手術のために五分刈りに切ってしまった私の髪を、何度も何度も撫でてくれ、動揺を私に見せまいと、必死に唇を噛み締めていたっけ。

ああ、こんな顔をするんだと、愛しさで胸がいっぱいになった。

久さんの後ろには環と小鍛冶くんも来てくれていた。

『操、頑張れ!』『操、ファイト!』というアイドルのライブで振りそうなうちわを持って、手術前にふたりが病室を訪れた時は大笑いしてしまった。
派手なうちわは、どうやらふたりで作ったらしい。
同い年の医大生と俳優のコンビの仲の良さに姉としてはニヤニヤしてしまったけれど。

ふたりは私が手術室に入るまで、うちわを振り、陽気に励ましてくれていた。

手術室に入り、説明を受け、麻酔を入れられる。

目覚めたら、四人でパーティーをするんだった。
楽しみだなぁ。

意識がすうっと無くなっていくまで、私はぼんやりそんなことを考えていた。


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