ご褒美は唇にちょうだい
「憧れでいいの?」


つい聞いてしまった。興味ない、関係ないとか言っておいて。
奏くんはこちらを見てにこりと笑う。


「うん、最初は憧れだったから。恋心を憧れにシフトダウンしてみた。俺って器用」


「器用かな。それって」


「もともと、付き合ってイチャイチャしたいとか、そういう欲求じゃないんだよね。だから、これでいいと思う。操さんへの気持ちはさ。彼女が元気で最高の演技を見せてくれて、大好きな人と幸福に生きている。それだけで、俺の気持ちは満たされる」


そんなものだろうか。

好きになったら付き合う。
ストレートな恋愛観の私に、彼の気持ちは少しだけショック。

そういう思いやり100パーセントみたいな恋もあるのね。

マンションに到着するとエントランスで、お姉ちゃんの部屋のインターホンを押した。

セキュリティロックのナンバーは知っているし、合鍵もあるけれど、来訪を告げるためだ。
あの初々しいカップルが愛をささやき合っているところに乱入するのは避けたい。

間もなく、お姉ちゃんの応答があり、プライベートフロアへのドアが開いた。


「環ちゃん」


ふと奏くんが言った。


「……やっぱなんでもない」


「なに?気になるんだけど」

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