ご褒美は唇にちょうだい
私が見る限り信川さんはいつも、妙に意識した視線を久さんに送っている。
彼女が私に優しいのは牽制なのか余裕なのか。

ふたりは同い年だったはず。
ましてや、信川さんは昨年離婚している。
久さんは私に何も教えてくれないけど、過去付き合っていたとか、今も付き合っているとか、離婚の原因はふたりの関係にあるとか……そんな事情があってもおかしくなさそう。

そんなことを勘ぐるたび、頭を掻きむしって叫びたくなる。


「……操ちゃん、そういうわけで、ちょっと今回は肝煎りだから」


社長に言われ、私ははっと顔をあげた。
完全に嫌な妄想で頭をいっぱいにしていた。慌てて気持ちを打ち合わせに戻す。


「くれぐれも、頼むよ」


まずい。いつから始まっていたっけ。
そういうわけってなんだろ。朝ドラの話だったはず。
でも何がどうしてこんなノリになっているのかわからない。

顔には見事に出ないんだけど、内心焦る私。
社長の目を盗んで久さんが耳打ちしてきた。


「あとで説明しますよ」


こういう甘やかし方、女優を駄目にするよ。久さん。
反省しつつ、感謝もしておく。


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