ご褒美は唇にちょうだい
もうひとつの理由は、私が気の利いた言葉を喋れないせいだろう。

役を決めれば簡単だけれど、普段から“愛想のいい可愛い女の子”役を演じることができないのだ。
朴訥で、不愛想。こだわりが強すぎて面倒。

そういうマイナスイメージを見せたくないという戦略ね。


「わかった、うまくやる」


「操さん……何か考え事をしてました?」


びくっと肩を揺らしてしまう。
ほら、素の私はこんなにもわかりやすい。信川さんに見せた作り笑い程度が限界なんだから。


「なんでもない。ちょっと、食べ過ぎて眠かっただけ」


「あなたがそれを信じろというなら、信じますが」


久さんは前を向いて運転している。
私の方は見ていない。しかし、声がわずかに低くなった。


「あなたのことなら概ねわかるって、言ってますよね」


バレているとしたら、相当に恥ずかしい。
だけど、信川さんとあなたの仲を疑って悶々としていたなんて口にだせないから、私は全力でしらばっくれる。
< 21 / 190 >

この作品をシェア

pagetop